盛岡で長く続く飲食店店主の独白集。平井久美子さん、小田原良二さんのふたりによる店「くふや」名義の 冊子だが、小田原さんの言葉はなく、平井さんによって「わたくしたち」という主語をもって、店の成り立ち、店を続けていくにあたっての姿勢や考えが語られていく。
音楽のかからない店内、簡素なメニュー、数をしぼった客席など、くふやの成り立ちにはそれぞれにきちんとした理由がある。淡々とした口調で紡がれる言葉は、「くうもの」を提供する商売を続けていく上での、それによって生計を立てる上での、ひいては生きる上での覚悟といってもよい。
B5版60ページ弱の冊子の本体価格は2000円。仕様からすると法外な価格だが、くふやの料理に魅せられた人であれば高くはないだろう。本も食い物もお客を選ぶことがあってもちろんよいのだから。
なぜくふやという店名にしたかと申しますと、たべるところだからです。飲むところはのみや、くうところはくふや。ね、シンプルでございましょう。わたしたちは店を続けていくのに、料理をこしらえるのに、かんたんな、楽なことばかり考えています。余計なものを削ぎ落としたほうがわたしたちの本分に集中できるからです。
『くふや くわず』(くふや)/企画・構成・編集:早坂大輔(BOOKNERD)
『くふや くわず』(くふや)/企画・構成・編集:早坂大輔(BOOKNERD)
